三〇代の被害住民、Mさんは腹の底から搾りだすような声で語る。「マンションの再建は誰のためでしょうか。僕ら、あのまま補強をして住めればそれでもよかった。ただ、あれだけ危険だ、家から出ろ、建物の価値はゼロだ、と煽られたら話がまとまりません。行政に建物の使用禁止命令を出されたとき、無視して居続けようかとも考えました。罰金は三百万円です。補強なら負担金五百万円、建て替えは二千万円以上。住み続けるのが一番安い。
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でもUR(都市再生機構)が、申し訳程度に示した補強案は、バルコニー側全面に太いV字の鉄骨をわたす簡単な図柄のものでした。全然、本気で考えちゃいない。仕方なく、全員が退去したんです。いまにも倒れる、殺人マンションだと言われて追い出された。近所の人だって、そりゃ怖いですよ。だけど行政は円滑化法の運用、手続きを盾にいつまでも解体しません。だったら使用禁止命令なんか出すな、と言いたい」耐震偽装事件は、メディアの関心が薄れたあとに建築の最大のテーマ「安全と安心」をめぐる課題や、意外な事実を浮上させた。